未来の価値 第26話


『ルルーシュ、いらない手間を掛けさせてしまったね』

通信越しに見る二番目の兄は、どこか悲しそうだった。
ルルーシュはスザクを学園に入れるための対価として、次兄が出した難解な仕事を寝食を惜しんで手伝っていたのだが、思わぬ所から横槍が入り、それらが無駄になってしまったことを気にしているのだろう。
シュナイゼルに許可を取ることなく、特派に居る直属の上司の許可も取ることなく、軍に関わる規則やイレブンに関わる法律を一切無視し、ユーフェミアはスザクを学園に入学させてしまった。
そして、シュナイゼルに対しては、事後報告という形で連絡を入れたのだ。
しかもその内容が「お兄様、特派にいるスザクはまだ17歳ですから、学園に通わせることにしました」と、悪びれることなくにこにこと笑いながらの報告だった。

「いえ、いい勉強になりました。それより兄上」

スザクは既に入学してしまった以上、文句を言っても仕方がない。問題は正式な手段ではなく、強引に入学させた事だ。そのことで、入学の話そのものが立ち消えになるのではと、ルルーシュは内心穏やかではなかった。

『枢木准尉に関しては君との取り決め通り、学園に通う事を許可しよう』

期日が早まってしまったが、それはルルーシュ側の非では無い。
だから何も問題はないと、シュナイゼルは安心させるように言った。

「有難うございます、兄上」

ルルーシュはようやく強張った表情を改め、やわらかな笑みを浮かべた。

「では、残りの書類もこちらで処理します」

スザクを自由にするための書類はまだ少し残っている。

『いいのかい、ルルーシュ』

ユーフェミアがスザクを入れた以上、ルルーシュが処理している書類はユーフェミアが処理すべきものとなった。スザクが軍務以外の日に通学するためには、あらゆる場所で特例を作らなければならなかったのだ。エリア11における軍事規定も一部変更しなければならなかったし、名誉ブリタニア人に関する法律も一部改正する必要が出た。皇族と言えど法を無視出来ないため処理している書類の大半は法律に絡んだものだった。それに、機密事項に関する取り扱いや、緊急時に軍人としてどう対応させるかなども全て取りきめなければならない。これがブリタニア人なら何も問題はなかったのだが、名誉とはいえイレブンだからこそ、処理すべきものがおおいのだ。

「構いません。残りの書類は期日までに提出いたします」

途中で他の者の手が入ったことで不備が出たらその方が問題だ。
全て完ぺきに自分で完結させる。
寧ろこれ以上荒らさないで欲しいとルルーシュは強い口調で行った。

『そのような話をしているのではないよ、ルルーシュ』
「他に何かありましたか?」

心底解らないという様に、ルルーシュは首を傾げた。
その姿を見て、一緒に通信室に居たクロヴィスは悲しそうに息を漏らし、シュナイゼルは一度目を伏せてから悲しげに眼を細めた。

『いや、君がそれでいいというならば、私はもう言う事はないよ』

通信が切れ、真っ黒いモニターをじっと見つめていたルルーシュに、クロヴィスは歩み寄った。

「ルルーシュ、無理はいけないよ」

相手が上位の皇族とはいえ、妹の手で顔に泥を塗られたのだ。
ルルーシュがこれだけの苦労をして手に入れようとした入学を、彼女はほんの数時間で達成させてしまった。何も苦労せず、何の手続きも踏まずに、ルルーシュが作り上げた場を奪い取ったのだ。
ユーフェミアの行ったことに対して何らかの処置を行うのが普通なのだが、ルルーシュは怒りを表に出すことなく、全てを呑みこんでしまった。
ルルーシュにとってスザクが無事に入学できさえすれば、今まで積み上げてきた努力を全て横取りされ、踏みにじられたことなど、どうでもよかった。
相手がユーフェミアで、悪意では無く善意からの行動だと解っているから尚更、この理不尽な結果を甘んじて受け入れた。
こうなると、シュナイゼルもクロヴィスもユーフェミアを咎める事はできない。

「無理などしていませんよ。過程はどうあれ、結果的には問題はありません。寧ろ予定よりも早く入学できたので良かったと思っています」
「・・・そうだね。ユーフェミアの方には私から話しをしておこう」

ルルーシュが、今までどれだけ手を掛け、スザクを入学させようとしていたのかを。
本来はどのような手順を踏まなければいけないのかを。
クロヴィスの言葉に、ルルーシュは首を振った。

「いえ、ユフィには何も言わないでください。あの子は副総督となるために、学生としての生活を捨てさせられたのです。同年代のスザクを見て、自分の代わりに学校に通ってほしいと、そう思ったのでしょう」

あの子は、優しい子ですから。
だから、今回の件でルルーシュが動いていたことなど、知らなくてもいい。
知れば、あの子は苦しむだろう。

「だが、ルルーシュ。物事には順序と言う物があるというのに、あの子はそれらを全て無視してしまった」

スザクは軍属の名誉ブリタニア人だから、自由気ままに空いている時間を自分のために使える訳ではなく、属している部隊の傍で待機しているものだ。休日は自室で体を休めたり、訓練を行ったりする為にある。休日であって休日ではない。自由など無いのが軍属の名誉ブリタニア人だ。軍事施設から外に出るにも、1ヵ月以上前に申請し、面倒な手続きを取る必要がある。
携帯電話の所持が許されない名誉を自由にしていては、緊急時に全員を招集する事が困難になるため、そう決められている。

それだけでは無い。自分よりも上位の皇族の部下の行動を勝手に決定したのだ。
ルルーシュのように上位皇族の許可を取らなければ、例え正しい行動をしていたとしても、それは越権行為に当たる。
普通に考えるならば、シュナイゼルに対しユーフェミアは挑発したことになるため、皇位継承権争いの火種にもなりかねない。
その危険性さえ、ユーフェミアは全く気が付いていないのだ。

「そうですね、確かにそれは問題です。今後ユフィが同過ちを兄上や姉上に行うようであれば、大変なことになります。その事を今回知る事が出来ただけ良しとしましょう。兄さん、ユフィに優秀な家庭教師をつけてください」
「そうだね、それはいい案だ。バトレー」

クロヴィスが声をかけると、壁際で待機していたバトレーが近づいてきた。

「イエス、ユアハイネス。すぐにリストアップいたします」
「今回の件に関して緘口令を引く事も忘れないでください」

ルルーシュはバトレーにそう念を押した。
誰の口から洩れるか解らない。
ルルーシュが動いている事は多くのものが知っている為、今更どうにもできないが、ユーフェミアの方は別だ。ユーフェミアが起こした勝手な行動をSPたちが話して歩く事はないだろうし、ユーフェミアも自分のした事を話して歩くタイプではない。だが、念のためSP達には今回の件を知らせ、独断でシュナイゼルの部下を連れまわし、許可も貰わず学園に入学させたなど周りに知らせないよう言い聞かせておく必要があった。
それさえクリアできれば、周りはルルーシュがスザクを入学させたと疑う事はないだろう。それですべてが丸く収まる。

「イエス・ユアハイネス。お任せくださいルルーシュ殿下」

ルルーシュに対し礼を取ったバトレーは、すぐに部屋を後にした。

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